授乳のたびに腰が痛む。かがむと痛い。お子さんを持ち上げるとき、一瞬こわい。産後二ヶ月ほどでご相談にいらっしゃった方が、最初に話してくださった内容です。
深谷市で産後の体のことを調べていらっしゃる方から、当院にご相談をいただきます。腰が痛い、骨盤が緩い気がする、尿もれが不安、体型が戻らない。産後に起きることは一つではありません。
そして多くの方が、同じ入り口から探し始められます。産後の骨盤矯正、というキーワードです。
先にお伝えしておきたいことがあります。産後の不調には、施術で変えられるもの、ご自身の運動のほうが効くもの、そして時間が戻していくものの三つが混ざっています。この三つを分けずに「全部やります」とお伝えするのは、当院はしないことにしています。
この記事では、その三つをどう見分けているのか、そして当院が正直に「分かりません」とお答えしていることまでお話しします。
■ 産後の体に本当に起きていること——「骨盤が開いたまま」ではありません
産後の説明でよく使われるのが、骨盤が開いたまま閉じていない、という言い方です。
まず、骨盤の前側にある恥骨結合という部分についてお話しします。ここは開いてしまう場所ではなく、もともとわずかに動く関節です。妊娠していないときでも四ミリから五ミリほどの隙間があり、出産の前後にはそこから二ミリから三ミリほど広がると言われています。一センチを超えるような広がりは、病的なものとして区別されるとされています。
つまり、産後に骨盤が動きやすくなること自体は、異常ではなく体が出産のために準備した変化と考えられています。閉じ忘れている、という表現とは意味が違います。
もう一つ、産後の関節の緩さはリラキシンというホルモンのせいだ、という説明も広く使われています。ただ、この点は正確にお伝えしておきたいところです。血液中のリラキシンは産後六週の時点では検出されなかったという報告があります。ただし対象が十数名という小さな研究で、同じ研究では母乳の中からは検出されています。ですから、体からリラキシンがなくなるという意味ではありません。それでも、授乳中はホルモンが出続けるから血液の中で高いまま、という説明については、このデータとは合わないことになります。
では、なぜ産後しばらく体が緩い感じが続くのか。当院がお伝えしているのは、妊娠中に引き伸ばされた靭帯や関節を包む組織が、元の状態に戻るまでに時間差がある、という見方です。ホルモンが出続けているからではなく、変化したものが戻る途中だから、と考えるほうが、実際の経過と合います。
■ 産後の骨盤の緩さ・痛みはいつまで続くのか
「いつまで様子を見ていいのか」は、いちばん多くいただくご質問です。
妊娠や出産に関係した骨盤まわりの痛みは、その大部分が産後三ヶ月から六ヶ月ほどで軽くなっていき、六ヶ月の時点でおよそ九十三パーセントの方が回復するとされています。一方で、八パーセントから十パーセントほどの方は、産後一年から二年ほど症状が残ることがあるとも言われています。
この数字の使い方には注意が必要だと考えています。多くの方が半年で楽になるということは、裏を返せば、半年経っても変わらない場合は「そのうち治る」に任せきらないほうがいい、という意味でもあります。
この文献上の目安をひとつの区切りとして考えると、産後半年です。それまでは体が戻っていく途中の時期でもあるので、痛みが少しずつでも減っているのなら、経過を見ていただいて構いません。減っていない、あるいは痛む場所が増えている場合は、時間が解決してくれる種類のものではない可能性があります。
■ 当院が最初に確認していること(骨盤だけを見ない理由)
産後の方の体を確かめるとき、当院は骨盤だけを見ることはしません。
確かめているのは、骨盤の傾きと、背骨のカーブの組み合わせです。
産後の方に多いのが、骨盤が前に傾いている状態です。骨盤が前に傾くと、腰の反りが強くなり、その上で背中が丸まり、さらにその上で首が前に出る、という形でつり合いが取られることがあります。背骨は一本でつながっているため、下の傾きの影響が上に及ぶことがあります。
実際、当院にいらっしゃった産後の方で、腰だけが痛いという方はほとんどいらっしゃいません。腰と膝、腰と背中と首、腰と足のしびれ、というように、二か所以上に症状が出ている方が大半です。骨盤矯正という言葉から想像される「骨盤だけの施術」と、実際に体で起きていることは、かなり違います。
もう一つ確かめているのが、力を抜いたときの左右差です。
立っている状態では、人は無意識にバランスを取ってしまいます。ですから仰向けになっていただき、いったん力を抜いた状態をつくったうえで、骨盤の後ろにある仙腸関節という部分の安定感や、両脚の開き具合の左右差を確認します。片側だけ開いている、片側だけ支えが抜けている、といったことが分かります。
抱っこは、ほとんどの方が同じ側で行います。授乳も向きが決まってきます。左右差はここから生まれます。だから左右差を見ずに、真ん中に整えることだけを目指しても、生活に戻ればまた同じ側に戻ります。
■ 実際の経過——授乳のたびに痛かった腰は、どう変わっていったか
産後二ヶ月ほどで来院された方のお話です。
授乳のとき、かがむとき、お子さんを持ち上げるとき。動作のたびに強い腰の痛みが出ていました。ご本人が何より不安に感じていらしたのは、痛みそのものよりも、このままでは子育てができなくなるのではないか、ということでした。
通院できるのはご主人がいらっしゃる土曜日だけ、という制約もありました。産後のケアは、体の話だけでは進みません。
経過は、一気に良くなるのではなく、段階を追って進みました。まず動作の中で痛みの出る場面が減り、次に痛みの強さが下がり、最後に不安が抜けていきました。最終的にはご本人の評価でつらさがなくなり、今は不安なく育児をされています。
別の方は、産後に太ももの裏のしびれと強い腰の痛みが出ていました。この方の経過で特徴的だったのは、しびれのほうが先に消えて、腰の痛みは後から落ち着いたことです。
順番があるということは、途中で「まだ腰が痛いから効いていない」と判断してしまうと、実際には進んでいる変化を見落とすことがある、という意味でもあります。当院が経過をお伝えするときに、症状ごとに分けてお話しするのはそのためです。
もう一方、産後に歩きづらさが続いていた方もいらっしゃいました。関節全体が非常に柔らかい状態で、抱っこがとにかくつらい、と話されていました。この方は歩き方が先に安定し、腰と背中の痛みが落ち着くまでにはもう少し時間がかかりました。
■ 骨盤矯正で尿もれは良くなるのか——正直に言うと「分かりません」
産後のご相談で、腰痛と並んで多いのが尿もれです。
このご質問に、当院は正直にお答えしています。骨盤矯正で尿もれが良くなるかどうかは、分かりません。
理由は単純です。当院は、施術を受けた方の尿もれがその後どうなったかを、きちんと追いかけた記録を持っていないからです。良くなったとおっしゃる方はいらっしゃいます。ただ、それが施術によるものなのか、時間の経過によるものなのか、ご自身で運動をされた結果なのかを、当院は区別できていません。区別できていないことを「効きます」とお伝えするわけにはいきません。
そのうえで、骨盤矯正に意味がないと考えているわけではありません。骨盤の位置がごくわずかにずれていると、筋肉が本来出せるはずの力を出しにくい状態になっている可能性があります。その意味で、体の土台を確かめて整えること自体には、やってみる価値があると考えています。
ただ、尿もれそのものに対しては、根拠がはっきりしているのはご自身のトレーニングのほうです。
骨盤底筋のトレーニングは、産後一年以内の女性において、尿もれが起こる見込みを低くすることが複数の試験をまとめた研究で報告されています。七件の比較試験、千九百三十名を対象とした解析で、オッズ比という指標が〇・六三、およそ三十七パーセント低いという結果です。
まとめると、骨盤矯正は体の土台を整える意味でやってみる価値はあるけれど、尿もれを軽くするという一点で見れば、ご自身の骨盤底筋のトレーニングのほうが確かだ、というのが当院の立場です。「骨盤矯正で尿もれを治しましょう」というご案内はしていません。
なお、産後の尿もれが長く続く場合や、量が多い場合、便のコントロールにも不安がある場合は、婦人科や泌尿器科でご相談ください。接骨院で扱う範囲ではありません。
■ 施術で変えられること・自分でやること・時間が戻すこと
ここまでの話を整理します。
| 産後に起きること | 主にどれが効くか | 当院の関わり方 |
|---|---|---|
| 骨盤の傾き・背骨のカーブの偏り | 施術 | 検査で傾きと左右差を確認し、負担の集まっている場所を減らす |
| 抱っこ・授乳で決まった側にかかる負担 | 施術と生活の工夫の両方 | 左右差を確認し、持ち替え方や座り方をお伝えする |
| 尿もれ | ご自身のトレーニング | 骨盤底筋のトレーニングをお伝えする。施術で治すとはお伝えしない |
| お腹まわりの筋力低下 | ご自身のトレーニング | 始める時期の目安をお伝えする(分娩の方法で変わります) |
| 関節の緩さそのもの | 時間 | 戻る途中であることを前提に、その間の負担を減らす |
| 体重・体型 | 生活全体 | 当院がお約束できる領域ではありません |
この表でお伝えしたいのは、産後ケアは施術だけで完結しない、ということです。そして、どこがご自身の担当で、どこが当院の担当かを最初に分けておいたほうが、遠回りになりません。
トレーニングを始める時期については、分娩の方法によって変わります。帝王切開の場合は傷の回復を優先する必要があり、自然分娩の方と同じ時期に同じことを始めるわけにはいきません。ご自身の分娩の経過を踏まえてお伝えしますので、いつから何をしていいかは、遠慮なくお尋ねください。
分娩の方法ごとの開始時期の違いや、骨盤矯正そのものの考え方については、別の記事で詳しくお話ししています。
▼この症状の専門ページ:産後骨盤矯正について詳しくはこちら|深谷たいよう接骨院
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■ 家でできること・気をつけていただきたいこと
大がかりなことをお願いするつもりはありません。産後に時間を作るのが難しいことは、承知しています。
なお、痛みが強く出ているとき、特に恥骨のあたりが痛んで歩きにくいときは、以下のことを無理に行わないでください。次の見出しでお伝えする受診のサインに当てはまる場合は、そちらを優先してください。
抱っこの側を、意識して持ち替えてください。完全に半分ずつにする必要はありません。いつも同じ側になっていることに気づいて、たまに逆にする。それだけで負担のかかり方が変わります。
授乳のときの座り方を見直してください。背中を丸めて覆いかぶさる姿勢が長く続くと、首と背中に負担が集まります。クッションでお子さんの位置を上げて、ご自身がかがまなくて済む高さを作るほうが体は楽です。
このとき、丸まった背中を意識して伸ばそうとする方がいらっしゃいますが、胸を強く張る姿勢は顎が上がって首の後ろが詰まりやすくなります。姿勢の直し方については、こちらでお話ししています。
関連記事:深谷市で猫背は背中を伸ばせばいいのかとお考えの方へ
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床から立ち上がるとき、腰から起こさないでください。片膝を立てて、その脚に体重を乗せてから立つ。産後は骨盤まわりの支えが弱くなっているので、腰だけで持ち上げる動きが積み重なると負担になります。
そして、痛みが出た日は無理をしないでください。産後の体は、良くなる途中で一時的に戻ることがあります。一日戻ったから振り出しに戻ったわけではありません。
■ こんなときは医療機関を先に受診してください
姿勢や骨盤の話の前に、先に確かめていただきたいことがあります。
足に力が入らない、感覚が鈍い場合。じっとしていても強く痛む、夜中に痛みで目が覚める場合。発熱を伴う場合。出血が続いている、量が増えている場合。恥骨のあたりが激しく痛んで歩けない場合。
これらは、産後の体の変化とは別のことが背景にある可能性があります。産後の腰痛やしびれの原因は一つとは限らないので、まず外しておくべきものを外す、という順序を当院は大事にしています。ご不安が強いときは、先に医療機関を受診していただいて構いません。
■ 深谷市で産後ケアをお考えの方へ
当院がお約束できるのは、産後の体を出産前と同じ状態に戻すことではありません。
できるのは、今の体でどこに負担が集まっているかを確かめて、それを減らしていくことです。そして、ご自身でやったほうが効くことは、正直にそうお伝えすることです。
お子さんを連れての通院についてご不安があれば、事前にご相談ください。通える曜日や時間が限られている方も多くいらっしゃいます。その前提で計画を立てます。
■ よくある質問
Q1. 産後どのくらいから受けられますか
A. 一般的には産後一ヶ月健診が終わってからとお伝えしています。それ以前は体が回復する途中であることに加えて、健診で確認しておくべきことがあるためです。ただし、痛みが強くて日常生活に支障が出ている場合は、産後一ヶ月を待たずにご相談いただいて構いません。その場合は、体に負担のかからない範囲でできることをご案内します。
Q2. 骨盤が開いたままだと太りやすくなりますか
A. 骨盤の状態と体重の増減を直接結びつける説明は、当院ではしていません。産後に体型が戻りにくい背景には、生活の変化、睡眠、食事、筋力の低下など複数の要素があります。骨盤を整えれば痩せる、というご案内はできません。
Q3. 何回くらい通えばいいですか
A. 回数でお答えするのは避けています。同じ「産後の腰痛」でも、痛む場所の数も、生活の中でかかる負担も方によって違うからです。お伝えしているのは、症状が段階を追って減っていく順番のほうです。どの症状がどう変わったかを一緒に確認しながら進めます。
Q4. 二人目、三人目でも受けられますか
A. 受けられます。当院にいらっしゃる方にも二人目、三人目の出産後の方がいらっしゃいます。ただ、上のお子さんがいらっしゃる分、抱っこや持ち上げる動作が増えるため、負担のかかり方は初産の方と変わることがあります。そこも含めて確認します。
Q5. 産後何年も経ってからでも意味はありますか
A. 産後の骨盤矯正という枠で考えると期間が過ぎていても、体に負担の集まっている場所があるのなら、そこを確かめる意味はあります。実際、お子さんが大きくなってから腰や膝の不調でいらっしゃる方もおられます。産後という区切りにこだわらず、今つらいかどうかでご相談ください。
Q6. 骨盤ベルトは使ったほうがいいですか
A. 産後の早い時期に、支えとして使うことで楽になる方はいらっしゃいます。ただ、ベルトは外から支えるものなので、支えている間だけ安定します。ずっと頼り続けると、ご自身で支える力を使う機会が減ります。痛みが落ち着いてきたら、少しずつご自身の支えに移していくほうがよいと考えています。
■ まとめ:分けてから始めてください
産後の不調は、ひとまとめにして「骨盤矯正で治す」ものではありません。
施術で変えられるもの、ご自身のトレーニングのほうが効くもの、時間が戻していくもの。この三つが混ざっています。そして尿もれのように、当院が正直に「分かりません」とお伝えしているものもあります。
産後の骨盤は、閉じ忘れているのではありません。出産のために動いたものが、戻っていく途中です。その途中で、どこに無理がかかっているか。当院が見ているのはそこです。
冒頭でお話しした、授乳のたびに腰が痛んでいた方は、今は不安なくお子さんを抱いていらっしゃいます。痛みが一度に消えたわけではなく、動作の中でつらい場面が減り、強さが下がり、最後に不安が抜けていきました。産後の体は、そうやって段階を追って戻っていきます。今つらいことがあるなら、それが三つのうちどれなのかを分けるところから始めてください。
深谷市で産後の体のことでお悩みの方は、深谷たいよう接骨院・整体院のLINEからお気軽にご相談ください。
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【著者情報】
田島 陽平(たじま ようへい)/治療家・株式会社キュアクオリティ代表。柔道整復師として20年以上の臨床経験を持つ。整形外科・接骨院勤務を経て独立し、埼玉県深谷市・熊谷市で2院を経営。カイロプラクティック歴15年以上・オステオパシーを組み合わせた独自の施術スタイルで、坐骨神経痛・腰痛・肩こりなど慢性症状でお悩みの方のサポートを行っている。現在は国際基準のフランス式オステオパシーを学んでいる。
【参考文献】
Impact of postpartum exercise on pelvic floor disorders and diastasis recti abdominis: a systematic review and meta-analysis.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12013572/
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、医療行為や診断を行うものではありません。症状が重い場合や長期間続く場合は、医療機関へのご相談をお勧めします。


